なべさんぽ

ちょっと横道に逸れて散歩しましょう。

作文キライ! 

 今年はコロナ禍の影響で少し様子が違いますが、去年までの夏休みなら今ごろ小学生は課題の作文で泣かされていることと思います。

みなさんは子どもの頃、
作文がお好きでしたか?
お嫌いでしたか?
どうとも思いませんでしたか?

私は嫌いでした。


 
 今の子供たちと同じように、私も小学校では読書感想文、意見文、将来の夢などいろいろなテーマで作文を書かされたものでした。私は作文が嫌いで、作文の課題がある度にウンザリしていました。

 なぜ作文が嫌だったのかというと、理由は2つあります。


 1つ目は、書くことがないことです。

 読書感想文や意見文には、自分の感じたことや考えたことをそのまま書くように先生から言われていました。しかし子どもの私には感性や知性がまだあまり育っていません。感想は「おもしろかった」「つまらなかった」程度ですし、意見なんてテーマに関する知識が足りないため提出できません。
 そのため、読書感想文はあらすじで字数稼ぎをし、意見文は賛成・反対にそれっぽい理由をでっち上げてくっつける、といった書き方をしていました。指定枚数に届かせるのになかなか骨が折れるので、とても嫌でした。


 2つ目の理由は、こちらの方が重大な理由ですが、作文は危険なことだからです。
 というのも、自分の感じたことや考えたことを人前に晒すには、小学生の私を取り巻く状況が悪すぎたのです。

 例えば「将来の夢」です。
 子どもの頃の私の将来の夢は「ステキなお嫁さんと結婚して幸せに暮らすこと」でした。
 子どもの私に将来の具体的なイメージはありませんでしたが、大人になったら結婚して家庭を築くのだろうとは思っていました。そして、結婚するのだったらステキな人がいいとも思っていたので、「将来の夢」と言われたら「ステキなお嫁さんと結婚して幸せに暮らすこと」になるのでした。


 小学生の男子が「ステキなお嫁さんと結婚して幸せに暮らしたい」と作文に書いて、もしそれがクラスメイトの他の男子に読まれてしまったらどうなるでしょうか?


 まず、騒がれます。
「おまえ、ケッコンしたいんだってー!?」
とギャーギャー騒ぐバカが出てきます。周りの男子もバカなので訳もわからず一緒になって騒ぎだします。騒ぎに気づいた女子にも注目され始めます。この時点でもう恥ずかしいです。

 次に、誰と結婚したいのかという詮索がなされます。
「誰とケッコンするんだ!?誰がスキなんだ!?」
とバカが更に騒ぎ立てます。「好きな人なんていない」と言ってもバカは収まりません。「はるかか?ようこか?」
と聞いてきて、私から答えが得られないとわかると
「わかった!ともみだ!」
と勝手に決めます。

「ちがう!!」
と私は必死で否定しますが、それがまたバカを調子づかせて、
「赤くなってる!やっぱりともみがスキなんだー!!」
と叫ばせます。バカでかい声です。
男子はやっぱりバカなので訳もわからずギャーギャー騒ぎます。「スキ」ということばに反応して、女子は静かにざわつき始め、お互いにコソコソなにかを囁きあっています。何を話しているのでしょう?

 私はもう恥ずかしいのと焦っているのとで、思わず
「スキじゃねーよ!あんなブス!!」
と叫んでしまいます。バカに対抗してバカでかい声で叫びます。私もバカです。
 ともみちゃんは状況はよくわからないけれども「ブス!!」という攻撃が自分に向けられたものだということはわかって、泣いてしまいます。かわいそうです。

 仲間が攻撃されたら女子は黙っていません。ボスが出てきて、
「ちょっとぉ、わたなべくん、ともみちゃんがかわいそうじゃない。謝りなさいよ!」
などと言ってきます。
 私は自分の方こそかわいそうだと思っているし、そもそも騒ぎを起こしたバカが悪いのに何で私が叱られなきゃいけないんだと腹立たしいしで、謝りません。それどころか、
「うるせぇ!ブスだからブスって言ったんだよ!!」
と火に油を注ぎます。バカです。それを聞いて、ともみちゃんを慰めていた他の女子も「ひどい…」とつぶやいたり、静かな非難の目を向けてきたり、先程とはちがう種類のざわめきが女子の間に広がります。
 
 私はまずいと思いましたがもう遅いです。事態は収拾がつかないところまで来てしまいました。何でこんなことになってしまったのかと後悔し、そんな状況に追い込まれてしまったことで情けなくなります。おまけに「ブス」に反応した男子がまた訳もわからずギャーギャー騒いでいて苛立たしいです。
 
 私は「うるさい!!」と怒鳴り、怒ったフリをして教室を逃げ出すしかないのでした。



と、このようなことになることが予想されます。作文は危険なんです。ですから私は「将来の夢」を正直には書かず、料理人だとか、プロ野球選手だとか、その時々にハマっていた職業を題材にやっぱりでっち上げを書くのでした。


 私は今では作文が好きです。自分の感じたことや考えたことを素直に表現して、それが人から受け入れられることは、とても心地よいことです。
 
 
 もし皆さんのなかに作文が嫌いなかたがいらっしゃったとしたら、それは子どもの頃の周りの状況が悪かったせいです。もうその悪い状況がなくなっているのなら、改めて作文をお書きになってみてはいかがでしょうか?
 
 あなたは案外、作文が好きかもしれませんよ。